造型的要素

 竹内敏雄氏が、新進美学者たちを動員して編集した「美学辞典」の中に、〝書〟は造形藝術としてとり扱われており、その説明は西田幾多郎の説と高村光太郎の説をミックスしたものである。

 西田博士は、書は「建築と音楽との中間に位する」といい、「筋肉感覚を通して、簡単なる線とか点とかより成る字形によって、自由に自己の生命の躍動を表現するのである」と述べている。

 高村光太郎は、書はもとより造型的なものであって、書の美が成立するための根本原理として、造型藝術共通の公理をもっている。これを無視しては書が存在し得ないといって、次の条項を挙げる。

一、比例均衡の制約

二、筆触の生理的心理的統整

三、布置構造のメカニズム

四、感覚的意識伝達としての知性的デフォルマション

 光太郎は一方また、書は「純粋なアラベスクとして観るのではなく」その醍醐味は「意味と造型とのこんぐらかり」にあるといって、書のとり扱う文字の意味を重視する。つまり書を単なる造形藝術として律し去る考えではないことに注意しておく必要がある。

 さて右に挙げられた諸要素のうち、最も根本的なものは〝比例均衡〟であると光太郎はいう。そして比例均衡を動的に見れば「動勢」の確立であるとし、動勢とは「造型の総要を貫通する一脈の精気であり、方向であり、一切を統一して有機的な組織たらしめる」ものであり、「動勢を欠くところに生命の賦与はない」という。それはまた「造型における量の細胞体の間隙を縫って、或は剛直に、或は婉曲に、底辺から頂点にまで貫徹する運動の気合であって、電光のように一本のこともあり、数本に分かれることもある。しかし決して中途で停滞せず、まぎれず、必ず或る方向に走って、作品の圏外に逸し去る勢いである」と見事な論述を示した。書作品は有機的一者でなければならず、このような動勢の厳存を要する。